「あの時は、ありがとうございました。あの日があったから、真紘先輩の歌があったから、私は今ここにいられています」
あなたが足を止めて手を差し伸べてくれたから、私はまた呼吸ができた。
あなたが歌ってくれていたから、再会できた。
今ここに私がいるのは、そんなあの日のあなたがいたから。
真紘先輩にとってはなんてことないことで、覚えていないだろう。
だけど私にとっては、とても大きなことだったんだ。
「……覚えてるよ」
「え……?」
すると、真紘先輩は体の向きをこちらに変え、逆光の中で言った。
覚えて、る?
それって、あの日のこと……?
「あの日は今年一番の夏日で、そんな日に限って補習があって。その帰りに本屋に寄りたくていつもと違う駅で降りた。そしたら、駅前でうずくまってる女の子を見つけた」
それは、きっと私のこと。



