「けど、いい歌だったよ。よく頑張ったな」
笹沼先輩は、ポンポンと優しく頭を撫でてくれた。
いい歌……そう言ってもらえるような歌が、歌えた。
「ありがとう、ございます……」
その言葉が嬉しくて、緊張から解かれた安心感も込み上げ、また涙が溢れた。
ボロボロと泣き出す私に、高田先輩はハンカチを差し出す。
それを受け取ろうとした時、その目はなにかに気付いたように私の背後へ向けられた。
「それに、ちゃんと伝わったみたいだよ」
「え?」
なんのことかと高田先輩の視線の先を追いかける。
するとそこにいたのは、真紘先輩だ。
この混み合った体育館の中を、人をかき分け駆けつけてくれたのだろう。彼はこちらを見て息苦しそうにマスクを外す。
「真紘、せんぱ……」
その名前を呼び終える前に、真紘先輩は私の腕を掴み歩き出した。
腕を引きずんずんと進んでいく彼に、戸惑いながらついていく。
不意に、彼の左耳に光る青緑色のピアスが見えた。
今日も、つけてくれていたんだ。
それだけのことが、ふたりをつなげてくれているようでまた嬉しくなる。
腕を掴む長い指。熱い体温。
確かなぬくもりが彼の存在を刻んだ。



