「あれ、ヒロ風邪?」
「あー……この前の咳が悪化して、なかなかよくならなくて」
高田先輩の問いに真紘先輩はいつものように答えるけれど、その声はひどくかすれている。
「大丈夫ですか?熱とかありませんか?」
「うん、本当咳だけでさ。長引いてもいやだし、明日朝イチで病院行ってくる」
「じゃあ音合わせは今日はお預けだな。俺らだけで合わせるから、ヒロは悠と一緒に聴き手に専念すること!」
口の端にソースをつけたままこちらをビシッと指差す笹沼先輩に、真紘先輩は「はーい」と笑った。
一見元気そうだけど、その笑い声すらもかすれていて苦しそうだ。
喉、悪化しちゃってる。大丈夫かな……。
そう思う不安な気持ちが顔に出てしまっていたのだろう。真紘先輩はこちらを見ると、小さく笑って頭をぽんぽんと撫でてくれる。
「大丈夫だよ。心配しないで」
体調が悪いのは彼自身のはずなのに、私の不安を拭うように微笑んでくれる。
こんな時まで、その優しさにやっぱり安心するなぁ。
笑顔の彼の耳元には、青緑色のピアスがキラリと輝いていた。



