「プロ?無理無理。日本中に何百人、何千人と音楽をやってる人がいて、音楽で飯食っていけるのなんてほんのひと握り。ほとんどは途中で夢みるのをやめてちゃんと就職してるよ」
「そ、そうなんですか……」
「CDも売れない時代だし、少し売れても次から次へ出てくる新しい人たちの中で生き残っていかなきゃいけない。そりゃあ、嫌でも現実見ちゃうよ」
そんなに厳しい世界なんだ。
でも確かに、一部のアーティストやアイドルを除いて、テレビに出ている人は早いサイクルで変わっていく。
それでも夢を見て、掴める人はひと握りなのだろう。
……だけど。
悲しい目で『現実』という言葉を口にする真紘先輩に、きゅっと胸が締め付けられた。
その痛みを堪えるように、私は真紘先輩の服の袖を小さく握る。
「……だけど、それでも私は真紘先輩の歌を聴きたいです。高校を出ても、大人になっても、ずっとずっと聴いていたいし、沢山の人にも届いてほしい」
現実は、厳しいのかもしれない。
プロだなんて夢物語だ、と笑う人もいるかもしれない。
だけど、そんな悲しい目で諦めないで。
だって私は信じたい。
私が救われた声は、いつか沢山の人の耳に届いて、どこかで誰かを救うこと。



