音楽に詳しいわけでもない私は、上手な感想は出てこない。
だけど、楽しいって気持ちだけはちゃんと感じられたから。
笑顔でそれを伝える私に、真紘先輩は少し安心したように微笑んだ。
「その様子なら、少しはすっきりできたみたいだね」
「え?」
「この前三者面談の後、落ち込んでたのが気になってたから」
三者面談の後って……そんな、何日も前のことを覚えてくれていたの?
あ、もしかしてそれで気にかけて、ライブに誘ってくれたのかな。
……そんなに表情に出してるつもり、なかったんだけどな。
ほんの一瞬でも見透かしてしまうほど、その目がこちらを見てくれていたことに、嬉しさと恥ずかしさが入り混じる。
だけどその気遣いに応えたいと思って、私は口を開いた。
「……実は、進路のことで」
ぼそ、とつぶやく言葉に、彼は耳を傾けてくれる。
「元々は大学に行くつもりだったんですけど、専門学校にしようかなって。でも先生とお父さんはいまいち納得してなくて」
「それはどうして?」
「私は、やりたいこともわからないのに大学に行くより、就職に強い専門学校に行って早く自立したほうがいいかな、と」
ぽつりぽつりと話す私に、真紘先輩は少し考えてからたずねた。
「それは、お母さんが亡くなったことに関係してる?」
電車の時刻を告げる構内のアナウンスと周囲の人の声が響く中、ぼそりと問いかけた声に、私は小さく頷く。



