「いってきます」
「…ねぇちゃん、いつもありがとう」
「別に、これくらいどうってことない」
玄関で交わされる、いつものやりとり。
いつも秀弥は決まって申し訳なさそうな顔で私にそう言うのだ。
「気をつけて」
「はいはい、秀弥もちゃんと宿題やりなよ?」
「うげえっ、分かってるよ」
「じゃあ」
「うん」
私はこうして、毎日行く場所がある。
電車で3駅、高級住宅が立ち並ぶこの街に、貧乏人の私なんかが訪れるのには理由がある。
「本庄、こっちだ」
「あ、白鳥さんいた」
「さて、早く行かないとお嬢様に怒られるぞ」
「はいはい」
そう言って白鳥が運転する黒い高級車に乗るのもいつものこと。
「愛莉子様、おはようございます」
「あ、遥華来てたのね。おはよう」
この高級住宅街でもまたさらに桁違いの大きさと豪華さを兼ね揃えたこの家の門をくぐり、長い長い廊下を早歩きで歩き、持ち場についた。