『 君はいつもそうだ。そして、私はいつも逃げ遅れる。それに気づくのは、君の温もりを感じてから_____。』
そこまで読んで、私は本を閉じた。
(やっぱり恋愛モノはいいよね〜っ! 本の話でも顔がにやけちゃうもん!)
私の名前は蒼井菜々。
この春、高校1年生になりました。
少女漫画、恋愛小説、ドラマ、映画などなど……。とにかく恋愛モノが大好き!
今も、最近買った恋愛小説を読んでたところで、気持ち悪いかもしれないけど、ニヤニヤしながら読んでいた。
え? ニヤニヤするのはリアルな恋だけでいいだって…?
…うん。あのね、実は……ね。
実は私、初恋もまだなんですッ!! 恋愛ドラマの見過ぎかなぁ?! それとも、少女漫画の読み過ぎ?!
いずれにせよ、彼氏いない歴は、イコール自分の年齢だ。
今日から華の高校生なのに、彼氏がいなくて残念な日々を過ごすのは、中学までで十分ですよーっ!!
ゆっくり学校に行く支度をしてると、家のチャイムが鳴って、「菜々ー、遅刻するから早くして!」って。
(うわっ! やばい…。ゆっくりしすぎたよ〜!)
朝からバタバタとうるさい私を、家族は冷たい目で見ている。
もうっ、華の高校生は忙しいんです!!
私はリュックを掴んで「いってきまーす!」と勢いよく飛び出した。
「遅い! 何分遅刻してんの?!」
私、蒼井菜々は只今お説教を受けています。しかも親友に。
わぁぁ……! ガチだ。ガチでお怒りだ…。
「す、すいませぇえん…!」
「あのねぇ、あんたはいいかもしんないけど、私は学校初日から遅刻なんてご免なの!」
ひぃぃ………! 目が怖い〜っ!
「まぁ、反省してるなら帰りサーティーワン奢ってね!」
「はいぃ…! 奢ります奢りますぅ!」
私の親友、市胡心愛様は怒ると誰にも止められない。
今みたいに自分から折れてくれたら早いんだけど。
苗字が “ いちご ” なんて変わってるよね。
心愛は和風美人っていうのかな? 大和撫子って言葉がぴったり。
背中まで伸びた長い髪。
切れ長だけど、大きな瞳。
きめ細やかな白い肌。
見れば見るほどその瞳に吸い込まれそうで…。
美少女ってこういう人のことを言うんだな…ってすごく感嘆した。
でも今のイメージは、仮面を被ってる鬼みたいな感じ。
そんなこと思ってるって知られたらどうなることか……。
(うわー、想像しただけでも怖い!)
「何一人で百面相してんの。気持ち悪いんだけど…」
親友の心愛様は、私を汚いものを見るような目で見ていた。
えっ!! き、気持ち悪い?!
「えぇぇ?! 親友に気持ち悪いはひどくないですか、心愛さん?!」
「親友だと思ったことない」
……そ、そんなぁっ!!
「うわぁーんっ! 心愛がぁぁ……ッ!」
私が泣きじゃくってたら、「あー、朝からうるさ」って心愛が呟いてスタスタと歩いていく。
私も泣きじゃくってる場合じゃない。
私たちは遅刻ギリギリなのを忘れてた。
そして私もバタバタと心愛の後を走って追いかけたけど。
走ったからギリギリだったけどセーフ……じゃなかった。
全然じゃなかった。
完全に大遅刻で、私たちは始業式最中に先生方からこっぴどく怒られて。
そして当然のように、心愛からもこれでもかってぐらい怒られた。
あぁー! せっかくのスタートを説教で迎えるなんて…。
(私のばかぁーーーっ!!)
「え……。あんたがバカなのはみんな知ってるし。改まって何?」
「…ハッ! しまった…!!」
声に出してからでは遅い。
私はついつい思ったことを叫んでて、周りにいた生徒に変な目で見られ。
さらに、“ 始業式に遅刻したバカ ” と全校生徒に知らされるハメになった。
始業式が終わった後は、それぞれのクラスに分かれてホームルーム。
…まぁ、私たちはほぼ始業式は出てないんだけどー。
無事(?)に心愛ともクラスが一緒で、ルンルン気分で自席へ向かう。
(あーあ、心愛が一緒のクラスでよかったぁぁああっ?!)
スキップをしてたからなのか、周りを見てなかったからなのか。
私は足を滑らせ、豪快に転んで……ってあれれ?! 転んだのに痛くない!! なんで?!
私が目をパチクリさせてると、誰かに支えられていることに気づいた。
「わわっ! す、すいませんっ! 周りをよく見てなくて…」
私がペコペコとお辞儀をしながらお礼を言って、その人の顔を見る。
「……ったく。よそ見すんなよ…」
「……っ!」
私は言葉が出なかった。
だってすごーーく綺麗な顔だったから。
「あ、ハイ…! 絶対よそ見しません……!!」
やっとのことで口を開き、席にそそくさと小走りする。
(わぁー! めっちゃびっくりした…。あんなイケメン、うちの学校にいたんだぁ…)
なんてのんきなことを考えながら席に座る。
ちなみに、私は “ 蒼井 ” で、心愛は “ 市胡 ”だから席は前後。
いやぁー、心愛が近くでよかった。
知らない子たちしかいないから、心愛が近くにいるだけで安心だね。
隣は誰かな〜と横目で見る。
(……な、ななんとぉぉお!!)
「お、お主! 私の命の恩人ではないか…!」
「……は?」
隣の席はなんと、さっき助けてもらった彼だった。
こんな運命ある?!(運命ではない)
