「中学に入学する前に家の事情で引っ越してしまったそうなので、再会するまでは北居くんと関わることはなかったです。

ましてや、彼がゲイだったことも知りませんでした」

私はふうっと息を吐くと、日本酒を口に含んだ。

「家の事情?」

柴崎さんが訳がわからないと言うように聞き返したので、
「北居くんから何も聞かされていないんですか?

彼のお母さんが交通事故で亡くなって、お父さんの実家で暮らすことになったんです」

私は答えた。

「ああ、何だ。

それだったら、ひーくんから聞いてるよ」

柴崎さんは納得したと言うように、首を縦に振ってうなずいた。

「北居くんが声をかけてくれたことにも驚きましたけど、彼がゲイで恋人がいることにも驚きました」

私はだし巻き玉子をかじった。