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「沙也加、匡、来たよ」

と、その手を引いていた男性・椎堂 佑一朗が、屋敷の玄関で出迎えてくれていた妻の沙也加に声をかけた…


沙也加は、佑一朗の隣にいた小さな男の子に目線を合わせ…にっこりと微笑んだ…

「匡くん、よろしくね。お母さんだと思って…仲良くして欲しいな」

と。。

にっこりと微笑んだ…その笑顔に、懐かしいモノを感じた…

「…お母さん…っ?」

首を傾げた僕に…

「あ…、ママっ!ね? 今日から、あなたのママの椎堂 沙也加です。よろしくね」

それなら分かる…

と、匡は、頷き返した…


後に、聞いた話しだが…
沙也加は、生さぬ仲…の匡を自ら進んで引き取りたい…と、佑一朗に言ったらしい…

それは、椎堂家の後継者候補を1人でも多く確保しておくため…とも言える…が…

彼女にとっては、それよりも大きな理由があったけ…ということを、匡は、のちのちまで知らなかった…


「私ね、匡くんに会えるの楽しみにしてたの!」

そぅ…、匡のことを…抱き締めてくれる人…

あったかい…と、正直に思った…

匡は、その女性に抱き締められ…嬉しかったのか、自然と笑顔になった。

匡は、自分の母親ではないか?…という錯覚に陥った…


「紘一はっ?」

と、佑一朗は、沙也加に聞いた…

「書斎室に。本、読んでます」

「そうか。」

「紘一、最近…また気難しくなって…子どもらしくない…と言うか…」

「あの子は、感が鋭いからな。椎堂家の後継者になるんだ…頭がキレるくらいの方がいい」

「でも…。」

と、その2人の会話…

すぐ様、その女性は僕の存在に気づき…

「あ! 匡くん、あなたにお兄ちゃんがいるの。紹介するわね!」

と、軽々と僕の身体を抱き抱え…その書斎室へと連れていった…

「紘一、匡くん、見えたわよ?」

と、ドアを開け…部屋の中を覗き込みながら言った…

その言葉に、読んでいた本から、顔を上げた男の子…

その男の子は、沙也加の方を見て…

「ふ〜ん。その小さいのがっ?」

と、まるで…興味が無い…というような口ぶりだった…

「小さいのっ!って。まだ2歳になるか、ならないか…なんだから…」

沙也加は、匡をトンっと下ろした…

「匡くん、あなたのお兄ちゃん、紘一って言うの」

匡は、紘一をじ…っと、見つめ…。。にこ…っと、笑顔を見せた…

「……っ」

紘一は、座っていたソファから、立ち上がると…読んでいた本を片手に…

「興味ないよ。父さんたちが決めたことだろ?」

と、僕ら2人の横を通り過ぎていく…

「紘一っ! いじめずに、可愛いがってよ?」

「分かってるよ。もう、いい? 笹原たちと遊ぶ約束してる」

と、匡のことはどうでもいい…というように、長い廊下を歩いて行った…

「まったく! あの子は!反抗期なんだから…」

と、独り言のように呟いた沙也加のことは、いまでも記憶にある…


それが…
匡と、この屋敷に住む…小さな王さまとの出会い…だった。。