匡は、すぐ様踵を返し、部屋を出ていこうとした…

「匡! 待って! 私は、あなたに初めて会った時から…あなたのお母さんになれるように…」

その言葉の途中で…、匡はその部屋を出ていった…


その、2人の様子を、部屋の前で聞いていた…

紘一は、匡を自分の部屋に呼び寄せ…

「お兄ちゃん…」

そのあとに、何かを言おうとしたが…

本当の兄ではない…と、証明されたいま…《兄》とは呼べなくなっていた…

口をつぐんだ匡に、紘一は笑いかけ…

「…よくやったな…」

その、小悪魔的な笑みは、いまの匡にとっては唯一の救いだった…

「お兄ちゃん…」

「分かっただろ? 俺は、主人で…お前は、俺の下僕だ…」

「……っ」

ただ…、頷き返すことしか出来ない匡…

匡は、頬に伝う涙を手で拭いさり…

紘一は、匡の身体を抱きしめ…、頭を撫で…

「…よくやった…」


紘一は、知らなかった…

母の沙也加が心臓に持病があるということに…

その行為が…、その生命を、縮めていくことに。。