「それじゃあ、お前が悩んでいたのは山岸君のことか」
 菊池は銀行の業務が終了した後、小林に誘われて居酒屋しげちゃんで飲んでいた。
 既に二人とも生ビールを三杯飲み、小林は日本酒、菊池はレモンサワーを飲んでいた。
 菊池は大きく頷いた。
「そうなんです。今日の午後、浦野洋子さんから、山岸さんに固執しなくてもいいんじゃあないかと言われましてね」
 小林は、鯛の刺身を一口食べ言った。
「確かに、浦野君の意見は一理あるな。俺も浦野君の意見に賛成だ。山岸君には気の毒だが、お前は中々の男前だよ。いくらでも相手はいる。何だったら俺の知り合いの娘さんでも紹介しようか?」
 菊池は、レモンサワーを一口飲んで答えた。
「ただ、私はどうしても山岸さんのことが忘れられないんです。別に同情からくるものではありません」
「だけどお前、相手は車いすだぞ。別に差別するつもりではないが、現実問題として考えなくてはならないぞ。お前が彼女の世話をするくらいの気持ちでいないといけないんだ。これは大変だと思うがな」
 菊池は考え込んだ。レモンサワーを一気に飲み干した。その後言った。
「課長のおっしゃっていることはよく分かります。ただ……」
 小林は主張した。
「俺は、お前の気持ちもよく理解しているつもりだ。嘘をついて彼女に会いにカンボジアまで出かけて行くくらいだからな。まあ、飲め。酔ったら違った考えも浮かぶだろう」
 小林はそう言い、店員にレモンサワーをもう一杯頼んだ。
 しばし二人は沈黙し、つまみを食べた。
 やがて追加で頼んだレモンサワーを、菊池が一気に半分程度飲んだ。
 小林が笑いながら言った。
「じゃあ、俺が知り合いの娘さんを紹介するよ。俺の同級生で群馬県庁で部長をしている者がいる。その長女がまだ独身なんだよ。年齢は確か二十八歳だったかな。高崎の会計事務所で働いている。器量もいいよ。どうだ、会ってみるか?」
 菊池は中空を見据えた。一体自分はどうすべきなのか?
 しばらくして、菊池は小林に向き直り言った。
「課長のお話は大変ありがたいんですが、来週まで考えさせて下さい。その上でお返事します」