終結
1
それから一か月が経過した。
本格的な夏が到来し、連日三十五度以上の猛暑日が続いていた。
菊池は、平日は銀行業務に忙殺されていた。
その後、嘘をついて有給休暇を取得したことに、道義的責任があるという意見も行内で登ったが、結局懲戒処分は下されなかった。
そんなある日、菊池がパソコンの画面を凝視していると、角ばった顔をした大柄な浦野洋子が菊池の許にやってきて、小声で訊いた。
「係長は、今後山岸さんとの関係をどうするんですか?」
菊池は、明らかに不機嫌な表情になり言った。
「どうするもなにも、今までどおりだよ」
「でも彼女の左足には義足が装着できなかったんでしょ。ならばデートだって限られた場所になりますよ。それでもいいんですか?」
「左足が欠損しようとしまいと、それが山岸さんの個性だからね」
洋子は、呆気にとられた表情をしていた。やがて言った。
「係長ほどの容貌をしていれば、何も山岸さんに固執しなくても、もっと素敵な女性が一杯いるでしょうに」
洋子が去ると、菊池は心の中で考えた。確かに車いすでの移動となると、行動範囲は必然的に限られてくる。これからは好きな場所にも行けなくなる。
浦野洋子の意見も一理ある。自分はまだ三十五歳だ。今回、亜里沙との交際が初めての異性との交際になったが、菊池はもう今はかつてのように、異性に対しての接し方に緊張感を持たなくても済むようになっていた。
やはり何事も経験なのだろう。
そう考えると、何も亜里沙に拘る必要はないのではないか? だが、やはり自分は亜里沙が好きだ。この気持ちは変わっていない。
だが、今後のことを一度亜里沙とじっくりと話し合わねばなるまい。
明日は、土曜日だ。病院にお見舞いがてら、今後の話をしてくるか。
亜里沙の怪我が回復し、社会復帰した場合には、段差が解消されている本店営業部への異動という方向で上層部は考えているようだった。
いつの間にか、小林課長が菊池の近くに来ていて、肩を叩かれた。
「どうした。菊池。俺がさっきから呼んでいるのに全く反応がなかったぞ」
菊池は我に返り言った。
「申し訳ありません」
「何か悩み事でもあるのか? 俺で良かったら聞くぞ」
「ありがとうございます。でもこれは自分で決めなければならないことですから」
「何だ。プライベートなことか。まあいい。菊池、今晩暇か?」
小林は、満面の笑みで言った。
菊池は頷いた。
「じゃあ、たまにはお前を慰労しよう。今晩飲みに行こう」
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それから一か月が経過した。
本格的な夏が到来し、連日三十五度以上の猛暑日が続いていた。
菊池は、平日は銀行業務に忙殺されていた。
その後、嘘をついて有給休暇を取得したことに、道義的責任があるという意見も行内で登ったが、結局懲戒処分は下されなかった。
そんなある日、菊池がパソコンの画面を凝視していると、角ばった顔をした大柄な浦野洋子が菊池の許にやってきて、小声で訊いた。
「係長は、今後山岸さんとの関係をどうするんですか?」
菊池は、明らかに不機嫌な表情になり言った。
「どうするもなにも、今までどおりだよ」
「でも彼女の左足には義足が装着できなかったんでしょ。ならばデートだって限られた場所になりますよ。それでもいいんですか?」
「左足が欠損しようとしまいと、それが山岸さんの個性だからね」
洋子は、呆気にとられた表情をしていた。やがて言った。
「係長ほどの容貌をしていれば、何も山岸さんに固執しなくても、もっと素敵な女性が一杯いるでしょうに」
洋子が去ると、菊池は心の中で考えた。確かに車いすでの移動となると、行動範囲は必然的に限られてくる。これからは好きな場所にも行けなくなる。
浦野洋子の意見も一理ある。自分はまだ三十五歳だ。今回、亜里沙との交際が初めての異性との交際になったが、菊池はもう今はかつてのように、異性に対しての接し方に緊張感を持たなくても済むようになっていた。
やはり何事も経験なのだろう。
そう考えると、何も亜里沙に拘る必要はないのではないか? だが、やはり自分は亜里沙が好きだ。この気持ちは変わっていない。
だが、今後のことを一度亜里沙とじっくりと話し合わねばなるまい。
明日は、土曜日だ。病院にお見舞いがてら、今後の話をしてくるか。
亜里沙の怪我が回復し、社会復帰した場合には、段差が解消されている本店営業部への異動という方向で上層部は考えているようだった。
いつの間にか、小林課長が菊池の近くに来ていて、肩を叩かれた。
「どうした。菊池。俺がさっきから呼んでいるのに全く反応がなかったぞ」
菊池は我に返り言った。
「申し訳ありません」
「何か悩み事でもあるのか? 俺で良かったら聞くぞ」
「ありがとうございます。でもこれは自分で決めなければならないことですから」
「何だ。プライベートなことか。まあいい。菊池、今晩暇か?」
小林は、満面の笑みで言った。
菊池は頷いた。
「じゃあ、たまにはお前を慰労しよう。今晩飲みに行こう」
