亜里沙は、依然麻酔が効いており眠っていた。
 個室であり他の患者はいない。小林、菊池、村尾の順に入室した。
 窓際に中年の男女が黙って座っていた。
 三人の姿を認めた中年の男性が、立ち上がり丁寧に腰を折った。
「私が亜里沙の父の山岸幸次です。このたびは娘がとんだご迷惑をお掛け致しまして、本当に申し訳ありません」
 見ると、女性のほうも立ち上がって頭を下げている。山岸幸次が隣の女性を紹介した。
「こちらは家内の圭子です」
 小林課長とは面識があるらしく頷いていた。他の者は初対面の挨拶を交わした。
 山岸幸次は、五十歳くらいであろうか、前頭部が禿げ上がり、目が細く唇が厚い。目尻に小皺が目立った。
 一方の山岸圭子は、やはり五十歳くらいで、髪が長く目が大きい。亜里沙は母親似と一目で分かる。
 小林が微笑しながら言った。
「まあ、命に別状がなくて本当によかったですね。私も彼女のボランティア活動について聞いておりましたが、まさかこんな事態になるとは思ってもいませんでした」
 山岸幸次が再度頭を下げ答えた。
「今後は二度とこんな危険な活動をしないよう充分注意します」
 小林は話を変えた。
「ところで、亜里沙さんは現在ボランティア休暇で銀行を休んでいます。来年一月末までです。明日から病気休暇に切り替えます」
 幸次が驚いたような表情を浮かべ言った。
「えっ、亜里沙は解雇ではないのですか? だって、左足が欠損しているんですよ」
 この問いには菊池が答えた。
「でもまだ義足を取り付けられる可能性もありますからね」
 幸次は行員三人を等分に見ながら訊いた。
「もし義足が取り付けられなかった場合は、車いすでの生活となりますが、その場合にはやはり解雇でしょうね」
 小林が苦渋に満ちた顔で言った。
「今勤務してもらっているのは、安中支店なんですが、安中支店には入口に段差があります。これから上司と相談し、段差がない店舗にて勤務してもらうことになるでしょう。解雇ということはありません。障害者差別解消法の趣旨を考慮したいと考えております」
 山岸夫妻は、お互いに顔を向け笑顔になった。
 その後、幸次が菊池を向いて言った。
「菊池さん。今後とも亜里沙をよろしくお願いします」