「そうですか。やはり駄目ですか……」
 文教大学附属病院の診察室に、菊池と主治医が対峙していた。
 主治医は、権藤勲と名乗った。髪が半白で、目尻の皺が深い。目が大きく鼻梁が高かった。若いころはさぞかし好男子であったと思われた。五十歳代後半に見えた。
 権藤医師は、額の縦皺を一層深くして言った。
「そうです。やはり左足が欠損してから、時間が経ちすぎています。それにかなりな高温状態に置かれていた様子です」
 菊池は大きな溜息をついた。その様子を見た権藤が言った。
「ただ、左足欠損といっても今は義足の精度が高まっています。もしかしたら義足が使えるかもしれません」
 菊池は、首を縦に振り権藤に訊いた。
「それは、彼女のケースでも大丈夫ですよね。それを使えば日常生活に支障はないんですよね?」
 権藤は、顔を皺くちゃにして答えた。
「確かに義足が使えれば、日常生活に支障はありません。ただ、彼女の場合に使えるかどうかはもう少し様子を見なければなりません」
 菊池は権藤に礼を言って、診察室を後にした。