それからセシリアは順を追って今日の出来事と判明した事実を報告する。ジェイドからウリエル区のもうひとりの医者であるテレサを紹介され、彼女がクレアの遺体を所見し真実を伏せた件。

 テレサ経由でドリスの元を訪れた際のやりとりなど。

 ルディガーはときどき口を挟みつつも、セシリアの淀みのない説明に耳を傾けた。

「アスモデウスに関してドリスは、きっぱりと否定しましたが、なにかしらあまり人に言えない美容法を試しているのでは、というのが私とジェイドとの見解です」

「たしかに、彼女の言動は少し引っかかる」

 ルディガーは顎に手を添え思慮を巡らす。その様子を見ながらセシリアは迷っていた。極力、主観を交えず正確に情報を伝えようとする中で、エルザの件を口に出せずにいたからだ。

 個人的な案件なので報告と別にするべきと判断したが、どう切り出せばいいのか。

「ドリスについてはもう少し探る必要がありそうだな」

「取り越し苦労かもしれませんが」

 申し訳なさげにセシリアは付け足す。ドリスはドュンケルの森で遺体が発見された件とは無関係かもしれない。アスモデウスの存在も信じていないくらいだ。

「それならそれでいい。なにも起きないように様々な可能性を考慮して動くのが俺たちの仕事だろ」

 きっぱりとした言い分にセシリアは目を瞬かせる。はっきりとした事実が掴めず、不安になりそうな気持ちはすっと消えた。

「はい」

 自然と笑顔で答える。こういうときにルディガーの副官でよかったと改めて思えるのだ。彼を尊敬する気持ちに曇りはない。