剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―

 長い年月に渡って使われているのだと推察できた。日に焼け、雨に濡れたりを繰り返してきたのか本来の木の色はずいぶんと薄れている。

 車輪もそこまで大きくなく回せばガタガタと軋みそうだ。たしかにあまり重いものは運べそうにないが、薬草なら十分だろう。使い慣れているのが窺えた。

「ところで先生の患者にドリスって女性はいらっしゃいますか?」

 ジェイドの振った話題にセシリアはわずかに緊張する。たしかホフマン卿の夜会でアスモデウスに接触したのではと話が上がっていた人物だ。

 聞かれたテレサは宙に目を泳がせる。

「ドリス?……ドリス・レゲーのことかしら?」

「実はうちの患者に彼女の知り合いがいましてね。最近、痩せたみたいだし大丈夫かと心配していたので」

 間髪を入れずにジェイドが説明する。テレサが不信感を抱いた様子はない。

「そうだったの。ちょうどよかったわ。この後、ドリスのところに行く予定なの」

 まさかの展開にジェイドは信じられない面持ちになった。それを誤魔化すため、話を続ける。

「彼女、どこか悪いんですか?」

 テレサは静かにかぶりを振った。

「正確にはドリスの元ではなく、彼女の家に一緒に住んでいる従姉を診に行くの。ずっと体調が悪いみたいでね。せっかくだから一緒に行きましょうか」

 渡りに船という状況だ。ジェイドとセシリアは顔を見合わせ、躊躇いを見せつつもテレサに同行する旨を告げた。