剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―

「少し中を見てもかまいませんか?」

「ええ、どうぞ。面白いものはなにもないけれど」

 興味があるらしくジェイドはテレサに尋ねる。テレサは倉庫に歩を進め、ジェイドとセシリアも後に続いた。

 大きな閂を抜いて重い扉を開けると、むわっとした熱めの空気が彼らを出迎える。発酵中だからか独特の香りが鼻をついた。

 両サイドの壁際には棚が備え付けられ、そこまで大きくはない樽が積まれているのが視界に映る。

 小さな換気用の窓があるだけで蒼然たる仄暗さに閉ざされている中、奥の暖炉に火が灯っており、その明るさが一際目を引く。

 セシリアが自然とそちらに注意を向けると、煌々と燃える赤い炎の端が一瞬、緑に揺らめいた。

「え?」

「どうした?」

 ジェイドに尋ねられセシリアは再度、炎をじっと見つめる。燃え続ける火は、よく知っている赤に近い橙色だ。緑など映らない。

「いえ」

 どうやら気のせいだったらしい。テレサに促され、それぞれ倉庫から外へ出る。身を包む空気は冷たいが、今は逆に心地よかった。肺に酸素を取り込もうと深呼吸する。

「上手くいけばお裾分けするわ。期待しないで待っていて」

「ええ、楽しみにしています」

 家の横に木製の荷車が置かれているのをジェイドが見つける。荷台部分には白い布がかけられていた。

「にしても量がわりと多いですが、あれで葡萄を運んだんですか?」

「この荷車は薬草を取りに行くために使っているの。車輪にもガタがきているから重いものは運べないんですけれどね。倉庫の裏口はフラットで中まで入れるから便利なのよ」