剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―

「是非! うちには年頃ならではの悩みを相談に来るお嬢さんもわりといらしてね。そういった人の相手も大事なのよ。病気や怪我を診るのだけが医師じゃないわ。体の不調も、実は心因的なものだったりする場合も多いから」

「そういうのは俺には真似できませんね」

 肩をすくめるジェイドにテレサはウインクひとつ投げかけた。

「あなたみたいな素敵な男性には話しにくい内容だったりするのよ。とくに成人前後の時期はどうしても精神的に不安定になる女性が増えるのよね」

 ふうっとため息混じりにテレサは呟く。ここでセシリアはジェイドが自分を彼女の元に連れてきた理由が見えた。

 若い女性を相手に色々と話を聞いているテレサなら、アスモデウスに関する噂もなにか知っているかもしれない。さらに、ここはジェイドの診療所よりもドュンケルの森に近い。

 とはいえ突然本題に入るわけにもいかず、ふたりの会話を見守る姿勢でセシリアは辺りを窺った。すると奥にある倉庫のようなものから煙が上がっている。

「あっちでは今、ワインを作っているのよ。発酵を促すために部屋の暖炉に火をつけて暖めているの」

 セシリアの視線の先に気づいたらしくテレサが説明してきた。先に反応したのはジェイドだ。

「先生、ワインも作り始めたんですか」

「ええ。いい葡萄が手に入ったから挑戦してみようと思って。上手くいくかわからないけれど」

 庶民の間でもワインは一般的に作られていた。発酵が運任せなので成功するかは、完成するまでわからないところもある。

 しかし商品として売買など考えず、自分たちで楽しむ分だけならわりとそこまで気を張らずともできたりするのだ。