「資料では隠れて恋人と会うため、となっていますが」

「らしいね。裏も取れている」

 クレアには親が決めた許婚がおり、十五になって結婚を強要されていた。しかし彼女には想いを通わせた別の恋人がおり、彼がウリエル区の人間だった。

 その彼と人目を忍んで逢瀬を重ねるためにドゥンケルの森を訪れたところ、獣に襲われた。首筋に致命傷となった傷があるので彼女に関してはあまり不審な点はない。

「にしても、スヴェンも結婚して丸くなったな。ライラの力は偉大だ」

 ふと話題に上ったもうひとりのアードラーについてルディガーが感想を述べる。それはセシリアも感じていた。

 あくまでほんの少しだが、スヴェンの纏う空気がわずかに優しくなっている。前は他者を寄せつけない冷たいものでしかなかったのに。

「羨ましいですか?」

「そうだね。素敵な夫婦だと思うよ」

 その返答に、ちくりと針で刺されたのに似た痛みを覚える。なぜなのか、原因をはっきりさせられずセシリアは話を戻した。

「続いては一ヶ月ほど前。カルラ・ヴィント、十八歳。ウリエル区出身、一般家庭の生まれで既婚者です。彼女に関しては大きな外傷もなく、手の甲に並んだ小さな傷があり、顔色も真っ青で毒蛇にでも噛まれたのではないかとの見解でした」

 セシリアは資料を捲る。そして三人目、二週間前に亡くなったレギーナ・ルフト、ニ十歳。ジェイドが話していた彼の患者だ。