翌日、真っ新の団服に身を包んだセシリアはスヴェンの元を訪れた後、ルディガーの部屋に向かった。緊張したのはほんの束の間、彼に会えば気持ちはすぐに切り替えられた。

 昨日、先に挨拶は済ませていたので、形式ばかりのやりとりを終え、セシリアは今日から正式にふたりの、ひいてはルディガーの副官になった。お互いに、昨夜の一件は口にはしない。

「では、どうぞよろしくお願いいたします」

 話が一段落し、セシリアは部屋を出て行こうと踵を返した、そのとき。

「セシリア」

 呼び止められセシリアはルディガーの方に向き直る。ルディガーは椅子から腰を上げ、机を回り込み大股でセシリアに近づいてきた。

「俺のために命を懸けるという誓いに偽りはないな?」

 気迫迫る勢いの彼に虚を衝かれつつセシリアは迷いなく答えた。

「はい」

「わかった。なら上官として最初の命令だ」

 セシリアは改めて背筋を正し、ルディガーを見上げた。ルディガーはセシリアの真正面に立つ。

「勝手に死ぬのは許さない。その体に傷をつけるのも、誰かに触れさせるのも」

 思わぬ命令内容にセシリアは目をぱちくりとさせる。しかしルディガーは真剣な面持ちを崩さない。そっとセシリアの髪先に手を伸ばした。

「髪の毛一本でもだ。全部、俺のものなんだろ」

 確認してくるルディガーにセシリアは表情を引き締める。

「はい」

 力強くセシリアは答えた。自分は彼のものだ。だからといって彼が自分のものでも、ならないのも重々に承知している。それでも自分の決意は揺るがない。