セシリアが城に戻ったのは太陽が山あいにすっかり姿を沈めようとする頃だった。馬を預け、アードラーの部屋にまっすぐに足を進める。おそらく会談はもう終了しているだろう。

「ただいま戻りました」

「おかえり、セシリア」

 ドアをノックし中に入ると、すかさず返事があった。机に向かっていたルディガーが、セシリアに視線を送って声をかける。しかし彼の表情はいつものにこやかなものとは違い、どこか険しい。

 セシリアはルディガーの元に歩み寄って尋ねた。

「バレク大臣との会談で、なにかありましたか?」

「いや。こっちの首尾は問題ない。いい具合に話をまとめた」

「それはなによりです」

 お互いに淡々とした口調だった。セシリアが机を挟みルディガーの真正面に立つと、ルディガーは鋭く投げかける。

「で、そっちは?」

「ほぼ、こちらの読み通りでした」

 セシリアは今日判明した情報を手短に報告していく。ルディガーは終始、渋い顔をしながらも話を聞き終え、引き出しからある書類の束を取り出した。

「そう言うと思って、ここ半年のうちに外で起こった死亡事案についてまとめさせておいた」

 まさかの先回りした行動にセシリアは目を丸くして資料を受け取る。

「ありがとうございます」

「セシリアや彼の言うように、偶然と思っていた件に、誰かの意図が絡んでいるのだとしたら放ってはおけない」

「そうですね」

 やっぱりまだまだ自分は上官には敵わないのだと思い知らされる。資料にざっと目を通しているとルディガーが再び切り込んできた。