「これは勘だが……彼女の死が持病から来るものではなく、なにか他に原因があったのだとしたら……おそらくまた犠牲者が出る。嫌な予感がするんだ。だからお前も調べているんだろ?」

 セシリアはカップを持つ手に力を込め、静かに視線を落とした。

 とりあえずジェイドからアスモデウスの話についてまとめた資料を借り、噂が出始めたのがおよそ半年ほど前からということで、セシリアはここ半年のうちに起こった不審死について調べる段取りになった。

「上官によろしく」

 律儀に診療所のドアのところまでセシリアを見送ったジェイドは軽い口調で声をかける。セシリアはため息をつき一応挨拶を口にし、背を向けて立ち去ろうとした。

「セシリア」

 ところが名前を呼ばれ、反射的にセシリアは踵を返す。

「今度来るときは私服で来い。夜警団の人間が出入りして妙な噂が立ったらかなわないからな」

 今回に関してはジェイドから言い出したことなので、なにも言える立場ではない。しかしアルノー夜警団の団服はなにかと目立ち、診療所を営むジェイドとしては訪れる客に下手な憶測を抱かせるのは信頼問題にも繋がる。

 警護・官憲組織の役割を担うアルノー夜警団の人間が頻繁に訪れるという事態は、いいことよりも悪いことを先に連想するのが一般市民共通の認識だった。

「善処します」

 セシリアは短く答え、続けて思わず口を滑らせた。

「……もしよかったら、また兄の話を聞かせてください」

「それはかまわないが。兄貴に関してはお前の上官に聞いた方が早いんじゃないか?」

 ジェイドの返しに、セシリアはすぐに発言を後悔した。フォローするか悩み、結局はなにも言わず、ジェイドの元を後にした。