「それは気の毒なことを聞いたな。そうか……そうだったのか。俺はあいつと別れてからすぐにここを離れて、異国で医療についてあれこれ学んでいたから。帰ってきてからもてっきり夜警団でやっているのだと……」

「もう八年も前になります。前国王のときに緊張状態にあった南国境沿いに隣接するローハイト国との戦で」

 そこでセシリアは口をつぐむ。感傷に浸ったわけでもなくこの場ではこれ以上の情報は必要ない。代わりにジェイドは宙を見つめ、改めてセドリックとの思い出を語りだす。

「セドリックは変わった奴だった。父親がアードラーだってのに自分から副官を志す男だったからな」

「兄は自分が上に立つより支える方が性に合っていると早い段階で思っていたそうです」

 つられてセシリアも付け足した。

 四つ年上の兄セドリックはセシリアにとって心許せる大好きな存在だった。細く柔らかなプラチナブロンドのセシリアの髪とは対照的に、兄は落ち着いた色合いのダークブロンドの髪でやや癖もあった。

 跳ねている髪先を見ては、もう少しきちっとすれば、それなりに女性にもモテるし威厳も出るだろうにと妹の立場として何度も口にした。

 責めているわけではなく、兄はもっとできる人間だと周りにわかって欲しいもどかしさからだった。口をすぼめるセシリアに対し、セドリックはいつも頼りなさげに笑ってそんな妹の頭を優しく撫でた。

 セドリックとセシリアの父ヴァンは、前アードラーであり厳格で甘えを許さない性格だった。