剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―

「それで、私を?」

「ああ、そうだ。最初に会ったときはアスモデウスに興味のあるただの貴族の娘かと思ったが、お前の名前を聞き、体つきを見て察しはついた。とはいえ夜警団が無能な連中なら手を組むだけ馬鹿だ。……しかしどうやらそうでもないらしい」

「なるほど。自分の元を尋ねて来いと言ったのは、あなたなりのテストだったわけですか」

 的を射られて、逆にジェイドは満足そうだ。セシリアの頭の回転の速さは彼の思った以上だった。

「ホフマン卿の娘がアードラーに熱を上げているのは知っていたからな。最初はアードラー本人にでも接触しようと思ったんだが、その必要はなかったらしい……これで納得したか?」

 セシリアはなにも答えずに机に置かれたカップに視線を落とす。黒い水面にかすかに自分の姿を捉えた。

「どうした? 珈琲は嫌いか?」

 一切カップに手をつけないセシリアにジェイドが問いかけた。この国では珈琲をあまり飲む習慣はない。どちらかといえば、薬用的に摂取する印象だ。

 医師のジェイドが好むのも理解できる。けれどセシリアがカップに口をつけないのは嗜好の問題ではない。

「……まだ、あなたがどこで私を知ったのか話していただいていませんから」

 セシリアの返答に、やはりジェイドは笑った。

「なかなか警戒心が強いな。だが、いい心構えだ」

 そこで珈琲を啜ったジェイドが、答えではなく逆にセシリアに尋ねる。