剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―

「たしかに彼女は生まれつき体も弱かった。しかし心臓を酷使しなければ、すぐにどうこうなるものでもない」

「……彼女の身に、なにかあったということでしょうか?」

 セシリアは慎重に問いかける。つまりジェイドは彼女の死に不信感を募らせているわけだ。ジェイドはカップを机に置くと、やや間を空けてから言葉を発した。

「はっきりとはわからない。ただ彼女は周りにしきりに聞いていたそうだ。アスモデウスには、どうすれば会えるのかと」

 “アスモデウス”の単語にセシリアも反応する。ジェイドの眉間に皺が寄り、目の色に鋭さが増す。

「今、流行っているアスモデウスの噂は完全な与太話にすぎない。とはいえ偶然だとは思えないんだ。アスモデウスに会えるのもドゥンケルの森の入口付近だろ?」

『アスモデウスにどこで会えるか知ってる?』

『それがね、噂ではドゥンケルの森の入口付近で会えるんですって』

 ふとホフマン卿の夜会で飛び交っていた噂話を思い出す。セシリアはここでようやくジェイドの狙いが見えてきた。

「アスモデウスについて探るために、夜会へ?」

「まぁな。自分の患者だったんだ。個人的にあれこれ調べているんだが、俺ひとりじゃ限界がある。アルノー夜警団なら情報も入ってくるだろうし、その力でもっと深くあれこれ調べられるだろ」

 ジェイドもセシリアと同じ目的であの場にいたわけだ。自分に接触してきた理由も納得できた。ジェイドがセシリアの正体に気づいていたなら尚更だ。