「俺も行けるときじゃ駄目なのか?」

 どこまで本気か量り知れぬ上官の申し出をセシリアはすげなく断る。

「一般人を訪ねるのにアードラーであるあなたが動くほどではありませんよ。今日、元帥は城で面会と会議のご予定でしょ。私があなたに同行する必要がないので、むしろいい機会です。なにより彼は私を指名してきましたから」

「だから気に食わないんだ」

 間髪を入れない切り返しにセシリアは肩をすくめた。

 この後、ルディガーはスヴェンと共に隣国のバレク大臣と国境の軍部体勢についての話し合いをする予定になっている。

 セシリアはルディガーの副官ではあるが、常に行動を共にするわけではない。むしろ席をはずさなければならない場面も多々ある。

 ルディガーも感情だけで話しているわけではない。ただ、少ししか会話していないがアルツトの雰囲気は夜会に参加している他の貴族たちとはなにかが違っていた。

 私情をまったく挟んでいないと言えば嘘になるが、彼の目的がセシリアなのだとすると彼女だけを行かせていいものか。

「ひとりで行くのを上官として許可できないと言ったら?」

「なら、非番の日にプライベートで訪れましょうか?」

 セシリアの素早い返答にルディガーは言葉を詰まらせた。

 上官としてセシリアの能力の高さもわかっている、信頼もしている。なら、これ以上迷うのは彼女の沽券にもかかわってくる。ルディガーはしばらくして前髪をくしゃりと掻いた。