『ルディガー、俺になにかあったらセシリアを頼むな』

 准団員としての訓練を終え、明日から正式にアルノー夜警団の団員としては配属が決まった晩。盃を交わしているとセドリックはなんの前触れもなく告げてきた。

 おかげでルディガーは幼馴染みの発言に大きく目を見開く。

 セドリックの表情は内容とは裏腹にあっけらかんとしたものだった。とはいえ、たしなめずにはいられない。

『お前な、縁起でもないことを言うのはやめろよ。それに託す相手が違うだろ』

 そういうのは、いつかセシリアが結婚するであろう相手に対してだ。今のところセシリアはまったくその気がなさそうだが。

 ルディガーだってセドリックと同じで、いつどうなる身かわからない。セドリックは苦笑してルディガーを見つめた。

『そう言うなって。あいつを上手く泣かせてやってほしいんだ』

『そこは泣かすな、じゃないのか?』

 意味が理解できず、ルディガーは訝しげに尋ねる。セドリックから答えはなく、意味深な笑みを浮かべているだけだ。思わずルディガーは尋ねる。

『……セドリック。なんで俺に言うんだよ?』

『お前には、生きる意味が必要だと思って』

 ルディガーがなにかを返そうとすると、先にセドリックが『それに』と続けた。

『唯一あいつを“シリー”って呼ぶ存在だからな』

 あのときのなにもかもを見通しているかのような彼の笑顔をルディガーは一生忘れない。

 ああ、やっぱり。お前には、全部こうなるとわかっていたのか。

 セシリアを守るためにも、彼女に再び同じ思いをさせないためにも、絶対に生きるのを諦めたりはしない。ルディガーは強く誓って、セシリアを抱きしめる力を強めた。