『彼は自分のせいで兄を奪ったからって責任を感じてその妹につきっきりだって』

「……私に責任を感じるのは、もうやめてください」

 本当はもっと早く言うべきだった。向き合うべき問題だったのかもしれない。この六年間、彼の副官としてそばで仕えていたのは、本当は誰のためだったんだろう。

 耳鳴りがするほどの静寂に包まれ、自身の息遣いと心音だけが耳につく。心臓が痛いくらい強く打ちつけて、セシリアは目の奥が熱くなるのをぐっと堪えた。

「違う」

 唐突に鼓膜を震わせた言葉に、セシリアは意表を突かれる。おずおずと顔を上げルディガーを見れば、彼は切なげに顔を歪めていた。

「違うんだ、シリー。そんなふうに思って君をそばに置いていたわけじゃない」

 そっとセシリアの頬に触れ、ルディガーは顔を近づける。彼のダークブラウンの双眸がセシリアを捕えた。

「俺を買いかぶりすぎだよ。シリーのためなんて優しい理由じゃない。俺が君を誰にも渡したくなかったんだ」

 そこでルディガーは一呼吸間を空ける。しっかりとした語調で言い聞かせた。

「愛しているんだ。誰よりも大切だから副官とか親友の妹とか関係なく、君を守るのは当然だろ」

 セシリアは瞬きひとつできず、起こっている現状が受け止められなかった。

「信じられない?」

「だって……」

 思わず副官としてではなく、素のままで返してしまう。ルディガーは苦笑して呟く。

「シリーの言った通りだよ」

 まったく。遠い昔にすでに彼女本人に言い当てられていた。