「悪かった、心配かけたね」

 その言葉がセシリアの心を大きく揺らし、さらに涙腺を緩ませた。

「ふっ……」

 頬を伝う涙は熱くて、呼吸も乱れる。こんなふうに感情を晒け出すのはいつぶりなのか。上官の前で泣くなんて副官失格だ。

 責めて欲しかった。自分の詰めの甘さや判断ミスが今回の件を招いた。不甲斐なさを叱責すればいいのに、彼が一番に気にしたのは副官である自分のことで、それが心苦しくて、申し訳ない。

 でもそれよりもっと大きくセシリアの心を支配していたのは、恐怖だった。怖かった。また失うんじゃないかと思った。

 そんな複雑な本音も全部見透かされている。やっぱりルディガーには敵わない。……きっと一生敵いはしない。

「元帥」

 セシリアの呼びかけに、ルディガーが彼女に触れていた手を止める。しばらくの沈黙の後、セシリアは深呼吸して調子を整えてからルディガーの顔を見て告げた。

「私が兄の……親友の妹だから、幼い頃から知っているからあんな真似をしたなら……っ、もう私を副官から降ろしてください」

 最後は思わず顔を逸らし、声も震えてしまった。ルディガーの元を訪れたら、言わなければと決めていた。

 こんなはずじゃなかった。セシリアが副官になったのは、ルディガーを守るためだった。命に代えても守ると決めていたのに。

 自分のせいで、一番大切な人をこんな目にあわせてしまった。これでは本末転倒だ。