セシリアはルディガーの自室のドアの前で悶々としていた。もうここまで来たら腹を括らないといけないのはわかっている。

 とはいえ、なかなか踏ん切りがつかない。この感覚には覚えがあった。正式に副官として着任する前夜、彼の部屋を訪れた際にも同じ気持ちだった。

 あのときは先にドアを開けられてしまったが、今は部屋の主の状態を考えたらないだろう。セシリアは思い切って小さくノックし、ややあってドアを開けた。

「失礼します」

 ルディガーの自室はあまり変わっていなかった。ベッドの上で上半身を起こし、書類に目を通していたルディガーはセシリアの姿を視界に捉え、目を白黒させる。

 先に口を開いたのはセシリアだ。

「横になっていなくて大丈夫ですか?」

 久しぶりの再会なのにも関わらず、あれこれ思う間もなくまずは彼の体勢について尋ねた。へッドボードに体を預けているとはいえ、体を起こしていて平気なのか。

 おかげでルディガーも素直に答える。

「こっちの方が楽なんだ」

 左頬には布が当てられ、ラフに羽織っただけのシャツの合間からは巻かれた包帯が覗く。痛々しい姿にセシリアは顔を歪めた。

「それよりもセシリア」

 不意に真剣な面持ちで話しかけられ、セシリアは体を硬直させる。ルディガーは持っていた書類をサイドテーブルに置き、彼女にもっとそばに寄るよう指示した。

 セシリアは早鐘を打ちだす心臓を押さえ、一歩ずつベッドサイドに近づく。緊張で口の中が渇き、自分の唾液を飲み込んだ。