テレサの診療所での一件から二週間が経過した。テレサの所業は明るみになり、アスモデウスの噂に関係していたことなどを含め、大きな騒ぎとなった。

 おもしろおかしく騒ぎ立てる者は少数派で、大多数は人柄も腕も良かったテレサに対し、驚きと戸惑いが隠せないでいるのが現状だ。

 テレサは瀉血した血をベテーレンの花と共に樽に保存していた。それらは血液を必要とする治療や、血液が不足する体質の者のために使おうとしていたのだと後の調べでわかった。

 彼女の行いは極悪非道とは言い切れず、情緒酌量の余地もあるとされたが、それよりも先にテレサの衰弱した精神状態を治療する必要があると判断され、彼女はアルノー夜警団管轄の元、適切な処置が行われている。

 セシリアはそれらの手配や過去のテレサが絡んだとされる事件の再調査と処理、また他にも彼女が瀉血をしていたであろう人物を洗い出すなど、目まぐるしく日々を過ごしていた。

「セシリア」

 仕事が一区切りつき、自室で少し休もうかと歩いていると、城の廊下で不意に呼び止められる。セシリアは踵を返して無意識に相手の名前を呼んだ。

「ジェイド」

「忙しいのもわかるが、あんまり無理するなよ。上官不在でお前までぶっ倒れたら誰がフォローするんだ」

 大股でセシリアに歩み寄りながらジェイドは遠慮のない口調で告げる。医師の象徴である黒衣を身に纏い、右目にはモノクルを装着していた。