「セシリアは優しいからね、ひとりで抱え込まなくていい」

 “優しい”ではなく“弱い”の間違いではないだろうか。そう返したいのに、声に出せない。

 本当はルディガーの言う通り、セシリアは自身を責めていた。ディアナの件はなんとか防げたのではないか。早く犯人を見つけないと、ドリスだって危ないかもしれない。

 その不安が眠りを妨げる。情報を集め、調べて動いていないとなにかに押し潰されそうだった。

『平気だよ。彼女の死を悼んではいるけれど、自分が気落ちするほど肩入れした覚えもない』

 自分はルディガーみたいに上手く割りきれない。冷静さを心掛けながら感情移入してしまう。弱い自分が情けない。そして……。

 もしも私になにかあっても、あんなふうに切り捨てられるのかな。

 副官なのだからそれでいい。とっくにルディガーのために命を捧げる覚悟はできている。彼が過去に兄を失い、その予防線として誰にも深入りしないし、させないのなら。自分に対してもそうなら……。

 目の奥が熱いのは寝不足だからだ。セシリアはなんとか掠れた声で小さく呟く。

「悪い夢、見そうなんです」

 ルディガーは穏やかに微笑んだ。捕まえていたセシリアの手に自分の指を絡める。

「大丈夫、見ないよ。俺がそばにいる」

 額を重ねられ、優しい口調にセシリアは瞼を閉じる。昔からこの手に、この声にずっと心を落ち着かせてもらってきた。

「おやすみ、シリー」

 唇にかすかに温もりを感じるも、セシリアは落ちるように眠りについた。