セシリアの胸には不気味さが張りつき、不安が入り混じる。続いて馬を飛ばしながら前を行く上官の気持ちを慮った。

 発見されたのはディアナ・ホフマン。ホフマン卿の娘で、夜会でセシリアも見かけた覚えがある。

 ルディガーとセシリアがドュンケルの森にたどり着いたとき、ウリエル区に駐在する夜警団の人間が現場を仕切る中、騒ぎを聞きつけた住民たちが野次馬となって辺りは騒然としていた。

 その中でも一際、目を引いたのは泣き崩れるトビウスの姿だ。夜会で放っていた威厳は微塵もなく小さく体を丸め愛娘の死を嘆いている。

 思わず目を背けたくなったがルディガーとセシリアは彼の、正確にはディアナの元へ近づく。

 雨はやんでいるが濡れた地面はぬかるみ、やや足場が悪い。草についた水滴が歩くたびに跳ね返ってくる。木々の影が太陽を遮り、ここら辺は異様に暗かった。

 そこで前を歩いていたルディガーが、ふと顔だけを後ろに向け小声でセシリアに告げる。

「……見なくていい」

「平気です」

 眉ひとつ動かさずにセシリアは答えた。ルディガーはわずかに顔をしかめたが、それ以上はなにも言わない。

 ふたりはディアナの遺体の元に腰を落とす。待機していた男性団員が遺体にかけていた布をさっとめくった。

 不幸中の幸いとでも言うのか、ディアナの死に顔は安らかなものだった。しかしすぐに異様さに気づく。

「髪が……」

「どういうことだ?」

 セシリアとルディガーがそれぞれ声をあげる。ディアナの美しく長い髪は耳下で切られ、少年さながらの短さになっていた。二人の反応に団員が現場の状況を補足する。