セシリアは自分にとって特別で、自分のものなのだと口にして、それはセシリアに対してではなくルディガー自身が確かめたかった。

 上官と副官になって、互いに言わなくても伝わることが増えた。居心地のいい関係を築けてきた。けれど、どちらも本心を秘めたままでは、それ以上深くには触れられない。

 踏み出すのは自分からだ。たとえセシリアが望んでいないとしても、そもそも最初に上官としての枠を踏み越えたのはルディガーの方だ。言い訳などとっくに無用だった。

「そろそろ俺も本気で向き合わないとな。もう六年だ」

 暗かった空から静かに雨が降り始め、大地の色を変えていく。細やかな水滴が窓を滑っては跡を残していった。

 ルディガーは笑みを浮かべながら、誰にでもなく呟く。

「この状況をセドリックが見たら一発くらい殴られてるな」

「いや、あいつはきっと笑っただろ。しょうがないって顔してな」

 スヴェンの返答にルディガーは目を見開く。そしてゆるやかに目を閉じた。

「そうかもな」

 小さな声は外の音にすっと溶けた。徐々に雨脚が強くなっていく。しばらく雨は止みそうになかった。