幼い頃おばあちゃんがくれた木箱。

辛い時に開けると不思議な事が起こる。

「社長!桐谷社長、大丈夫ですか?」

「うるさい!君の声で頭痛がする。」

「すみません…。」

なんだよ!心配してんのに。

車中、桐谷がうめきだしたので気になって由美は声をかけた。

「それよりお菓子たのむ。」

お子ちゃまでしゅか?

「君は脳みその1%も使ってないのか?」

「はい?」

さすがにカチンときた。

「何で苦手なチョコレートと烏龍茶を買ってくるんだよ!理解に苦しむね!」

「すみません!」

頭の中で一番嫌いなものがNo.1になってしまった。

テストの答案用紙に名前を書き忘れた感じだ。

仕事ではスマイルそして契約解除。

車中ではポテトチップスに炭酸。

いくら事故に遭ってもこんな極端にはならないだろう普通。

普通という言葉が間違っているのかもしれない。

普通ではないのだ。

「何を考えている?面倒くさ!とか思ってるんだろ?」

「いえ、そんな事は。」

「うちの会社も取引先も必要じゃない人間達ばかりだ。俺は、やみくもに契約解除してる訳ではない。」

大きい子会社より小さな工場の方が何倍も効率も仕事もしているんだと言いたいらしい?

「君の部屋が見たいもんだな。ゴミ屋敷で検索すればヒットしそうだな。」

「普通です!」

「君の普通は常軌を越えている。ハッハハ。」

何、その高笑いは?意味不明。

確かに帰っても布団以外は何も見えないぐらい散らかっている。

上京して1年もたっていないのにすごいと自分でも思う。

会社に戻っても仕事の山。

社長が謀反を起こしているから取締役達も心配している。もちろん自分のクビを…。

今のワンマン経営だと誰もついてこないと毎日のように弟さんが説得しに来ているが全く耳を貸さない。

「兄貴は、本当は病院で安静にしてないといけないのに…。」

「必要ない。俺は、いたって普通だ。」

どこが普通だよ!悪魔と契約を交わした人間にしか見えない。

「お前は何で部長なんだ。仕事は重役よりも出来るのに。いくら打診しても副社長にならない。」

「高い位置からじゃあ見えないものもある。」

「いつ?どこで?そんな結論が出る?」

露骨に嫌な兄貴だ。

「俺を心配するなら副社長になるんだな。」

「分かった、明日から正式に就任する。」

「さすが俺の弟だ。新垣!ちをたら仕事してるんじゃない!早く素早く正確に仕事をしろ!」

「はい!」

「給料をこっちがもらいたいぐらい君はのろまな亀だな。やっぱりウサギを飼うべきだったな。」

後悔してるなら今すぐ普通のOLにもどしてよ!この俺様社長が!

と由美は叫び出したい気分だった。