「名刺?」

ゆかりは私の手から名刺を受け取ると、それに視線を落とした。

「えっ、『ニノミヤ硝子株式会社』って…!?」

ゆかりは信じられないと言った様子で私と名刺を交互に見つめた。

「それ、ゆかりにあげるから」

そう言って私は今度こそ彼女の前から立ち去ろうとした。

「ま、待って!

あげるって、何で!?」

ゆかりは逃がさないと言わんばかりに私の腕をまたつかんだ。

「私じゃなくてゆかりに渡したんだもん。

相手もゆかりだと思って名刺を渡した訳なんだし」

「いや、その場にいたのはお姉ちゃんでしょ!?

向こうはお姉ちゃんに名刺を渡したんだから、これはお姉ちゃんが持っているべきだよ!」

名刺を返そうとしたゆかりに、
「でも、相手に“小山内ゆかりです”って名乗っちゃったし」

私は言い返した。