蝉の鳴き声が空気全体に溶けているみたいだった。 そこらじゅうに 金のたわしでコンクリートを こすったような音が聞こえる。 「え!陽(はる)もう宿題終わったの?」 石段の上で 千代(ちよ)が驚き振り返る。 僕が数学の宿題の最後の問題が難しかった と愚痴ったからだ。 「珍しいとか思ってるだろ。 僕だって早く終わらせることあるし」 「お、思ってないよ・・・。 ごめん」 俯いた千代を追い越す。