前略、さよなら


千代のお父さんはうわ言のように
ぶつぶつ呟き始めた。


「違う、違うんだ!

しつけだよ!

千代のためを思って

時々厳しくしただけなんだ!」


「痣が残るほどですか?」


騒ぎを聞きつけてやってきた
警察官の鋭い声が
千代のお父さんを刺した。


「他人が首を突っ込むな!

俺だって!

俺だってな!

家族を支えるために
必死にやってきたんだぞ!

だから!」


大きな声に
一瞬だけ周りの蝉が鳴きやんだ。


しかし千代のお父さんが
口を閉じるのと同時に
また鳴き声が薄く広がった。


僕、1年前の僕、千代のお母さん、
そして
お母さんに抱きついたまま
目を合わせようとしない千代へと
目線を動かしてから

千代のお父さんはうなだれた。