男は、ポケットに入れていた右手を出して
カシャン、カシャンと、慣れた手つきで
変形式のナイフを弄ぶ。
「おれの好みは死んでからぁ、なんだけど、……お姉さん可愛いからトクベツにぃ、選んでいいよ?」
口だけが上がる独特な笑顔で
男が、ナイフを弄んで近づいて来た。
これ以上近くにいたら
ヤバい……。
「どっちも、お断りします!」
アタシは、出来る限りの力で
スーツケースを男めがけて投げつけて
ダッシュで逃げる。
なりふり構ってたら殺される。
逃げろ、逃げ切れ!!
公園を抜けるまで
速く、ハヤク……。
途中で、持っていたお弁当も投げつけて
更にダッシュで駆け抜けようとして
「あっ?」
慣れないヒールでのダッシュと
公園の歩道のガタつきにつまづいて
思いっきりコケてしまった。


