ガシッと、左の肩を掴まれて
えっ!?
もの凄い力で後ろに引っ張られた。
バランスを崩しそうになって
持っていたスーツケースのおかげで
なんとか倒れずにすんだ。
けど……
すぐ近くに
白いフードを被った男が
嬉しそうに口だけで笑っていた。
「……」
ム、ムリ……。
急いで
アタシとそのパーカーの男の間に
スーツケースを置いて間を作る。
いざとなったら
スーツケース捨ててでも
走って逃げなければ……。
「……ねぇ、どっちにする?」
「何が?」
「……死ぬ前と、死んでから? どっちがイイ?」
何を言っているのかわからないのに
『死ぬ』と言うワードだけは
確定事項みたいに、この男は言う。
「……っ」
体中から、危険信号みたいに
痛みに近い強い鼓動が脈打っていた。


