唇をはなして
困惑した声で先輩が言う。
「……イヤだった?」
アタシは、小さく首を横に振った。
頬を伝う涙を、先輩が
親指でぬぐってくれていた。
「……怖いです、先輩の彼女でいるのは」
嬉しいより、不安の方が勝っていた。
「これ以上、可児先輩を好きになるのが、怖いです……」
自分の声が
思っていたより震えていた。
先輩の腕に力が入って
気付いたら
胸の中に抱きしめられていた。
「……必ず、安心させるから、もう少しだけ待ってて?」
「……」
先輩の頬が、アタシの頬に触れて
「信じてくれないかもしれないけど、この会社に入って、オレが彼女にしたのは由似ちゃんだけだからね」
耳元で、苦しそうに先輩が
小さな声で言った。
アタシは、信じたい気持ちで
背中に手を回し
すがるように、ギュと先輩を抱きしめた。


