派遣社員として事務で働き続けていた私。
忙しいときは当たり前のように続く残業、休日出勤。
忙しくないときは働き方改革がどうのこうのと言って定時退勤。
やりがいを感じる仕事でもなかったし、契約を更新せずに辞めた。
その先を何も決めずに退職してしまった私は生活費もかつかつで、とりあえずすぐ稼げる仕事をと思いメンズエステで働き始めた。
まあまあ露出度の高い服を着て男性に密着しながらマッサージをする仕事なので、風俗行為は一切無しという決まりといえども勘違いして触ってきたり、あわよくば、と思う男性は多い。
強くは言えない私はそういうお客様にあたると困るが、10日出勤で1か月分の給料だった。
社長もとても良い人で、友達みたいな関係だ。
親に胸を張って言える仕事ではないかも知れないが、それなりにやりがいを持って仕事をしている。

無職だった暇な時間に興味本位で出会い系サイトに登録していた私は
何人かの男性と連絡を取っていた。
出会い系サイトというものは、私みたいな普通の顔の女の子でもメッセージがたくさん来る。
やりとりをしばらくして、お話してみないとどんな人か分からないので「会おう」と言われても理由をつけて断り、また連絡しますね~と言っていた。
生活費に困っていたのでどこかにお茶しに行く事ももったいないと思っていたことと、登録しておいてなんだが、めんどくさいという気持ちもあった。
仕事を再開して生活も落ち着いてきたら「とりあえず会うだけなら」という気持ちも出てきた。
その頃ちょうど良いタイミングで連絡をしてくれたショウマさんに会ってみる事にした。

当日、私は待ち合わせ場所の駅の定食屋さんの前で待っていた。
約束の時間は12時。
15分前に着いた私は俯いて深呼吸をした。

おはようございます!
駅の定食屋さんの前で待ってますね(^^)

と送ると

おはようございます!
もう着いたんですね!早いですね!
58分に電車が着くのでもう少しお待ちください(><)

と返ってきた。
早く来すぎたかな。
人を待つ時間というものは何でこんなにも緊張するのだろうか。
すぐ緊張してしまう性格の私は、何で出会い系サイトでこうやって顔も名前も知らない男性と会うことを決断できるのか、自分でも謎だ。

「こんにちは」

気が付いたら一人の男性が私の顔を覗き込んでいる。

「あ、ショウマさんですか?」

見上げるほど背が高く、幅の広い二重。第一印象はとても良かった。
少し眉をあげながら会釈をして「はい、行きましょうか」という彼。
彼が調べてくれたイタリアンのお店に並んで向かう。

駅から徒歩10分ほど離れた所にあるお店で、少し狭い道には思ったより車が行き交う。
「あ、こっち」突然私の肩に大きな手が回される。
道路側に彼が移動する。

や、やばい。
元カレにもされたことなんてなかった私はただただドキドキ。

訪れたお店は地元の穴場的なところで、完全予約制だったのだが知らなかった私たちを快く入れてくれた。
メニューは置いてなく、その時の食材、お客様の食べたいものを聞いて提供するスタイルだ。
有機野菜をたっぷり使ったピザとパスタがテーブルに運ばれる。