はぁ、とため息をついた井上は、それでもどこか安心したような表情をしていた。それはたぶん、俺も同じで。何もしてないのに何かしたと思われているのは非常に不本意なわけで。これからも仕事で付き合っていくなら誤解は解いておきたかった。

 それにしても覚えていないのか。凄いな、井上。

「まぁ、覚えてないならしゃーないけどさ」


「あのー、何があったか教えてくれる?」

 おずおずと気まずそうに問われて考える。

 金曜日の夜に何があったか?

 何って。栄さんにガンガン飲まされて、送って行ってあげるとかなんだとかの押し問答をしていたから俺が送っていくことにした。……その後、吐いて。洗えばいいんじゃんとホテルに行って、そのまま井上は勝手に寝た。

 整理して考えて思うんだが……別にこれ、忘れてても良くないか? むしろ俺が他言しなきゃいいんだから忘れたままの方が、良くないか?

「聞きたいの?」

「え?」  

「言っても良いけど―……素面じゃないほうがいいかもよ?」