「そうだったね。早く別れろーって思ってたけど」

「ですよね。いっつも言ってくれてましたもんね。だから、遠距離怖くて」

 前橋君を信じていないとか、そういう訳じゃない。前の彼と別れた時みたいに、居ないのが当たり前になっていくのかもしれないって。

 初めて経験した遠距離恋愛は、居ない事に慣れないとしんどくて。そして、居ないことに慣れてしまったら、後はもう、会わなくても平気になって。あの時、別れたのになんにも変わらなくて、変わらないことがショックで泣いたっけ。

 だから、前橋君が居ない事になんて、慣れたくない。

「絵奈ちゃんが納得して、それで幸せならいいのかな。てか、前橋君も前橋君だよ。しれっと連れてくとか言って。連れてくの私の絵奈ちゃんじゃん!!」

 ホントにもー、と佐伯さんは言いながら、グラスを傾ける。

「絵奈ちゃんお酒飲まないの?」

「はい。明日も仕事だし、今日は、やめとこうかなって」

「あたしは飲みまーす。前橋さんに失恋したんで」

「真希ちゃんのは失恋とは言わないよー?」

 佐伯さんと真希ちゃんの笑い声の中

『俺がいないところで、飲むの禁止な』

 耳元で、前橋君の声が聞こえた気がして、フフっと笑みが零れた。


【オマケ、おわり。】