「絵奈ちゃん優しいからなー。私みたいに容赦なくやっちゃえばいいのに」

「えーと、……容赦なくやったんですか?」

「昔だよ。ずっと前。それ以来私の所に仕事持ってこないんだよねー」

 あっけらかんと言うが、寄り付かなくなるってどれだけ容赦なくやったんだ? と目の前の佐伯さんを見てしまう。一見すると本当に小柄で可愛い人なんだけどな。

「旦那着いたみたい。じゃあ前橋君、元気でね。美味しいお店見つけたら教えてね。青森行った時に行くから。あ、最後に絵奈ちゃんから栄さん引き剥がすのよろしくね」

 俺の彼女、その”絵奈ちゃん”なんですけどね? と胸中で思いながら佐伯さんを見送って、絵奈の方に足を向ける。

 つーか、もっとガッツリ断れよ。佐伯さんの言う通りだよ、まったく。

 俺が近づいていくのに気付いたらしく、大層気まずそうな表情で栄さんと話している絵奈の肩に背後から腕を回して、そのまま自分の胸に抱き寄せた。

「帰るよ、絵奈」

 見上げてきた絵奈を間近で覗き込む。

「う、うん。わかった」

「じゃあ、栄さん。お世話になりました。あと、井上は俺のなんでちょっかい出したら承知しませんので」

 鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をした栄さんに余裕の笑顔で言って、絵奈を連れて歩き出す。