「何食べたい?」

「肉」

  俺の返事に「えぇ。漠然とし過ぎ」と微妙そうな声を上げた井上に小さく笑う。

「別になんでもいいよ。簡単にすぐ作れるもんで大丈夫。パスタでもなんでも」

 というか正直、自分の家で料理してもらえるだけで十分すぎるほど幸せですけれど。

「パスタかぁ。どんなのが好き? トマト系とかミートソースとか、クリーム系とか」

 そんなに色々すぐに作れんの? とレトルトパスタソース愛用の俺は思ってしまう。時々弁当を持ってきているのは見かけていたけど、やっぱり井上はちゃんと料理をするんだ。

 スーパーでパスタの材料を買い揃えながら、井上はワインの並ぶ棚の前で足を止めた。

 たしかにパスタとワインは合うけど。でも、今日は絶対に飲ませない。そう決めてんだよ、先週から。

「飲まないよ」

 井上の手にあったワインのボトルを奪って、少し屈んで井上の耳元で囁いた。

「飲んだら忘れるだろ? だからダメ」

 ワインを棚に戻しながら横目で見た井上は、耳まで真っ赤になっていた。

 やば。めっちゃ可愛い。仕切り直しがマジで恨めしいんですけど。