「好きだよ」

焦点も合わない程に間近で、井上の唇がかすかに動くのが見えた。

「私も、好き」

囁くような吐息混じりの井上の言葉は、解けるように染み込んでいく。

 そのまま頬にも首筋にも唇を落とすと井上は首を竦めて、その唇から零れた甘い吐息が耳をくすぐる。

 何度もキスを重ねながら、アルコールが微かに香る井上の甘い吐息に気が付いて我に返った。

 ……井上、家に来てからも1本飲んでた、よな? 
今も少なからず酔ってるよな? 朝、忘れてたりなんてしないよな?

 先週、あんなに普通で忘れてた事が頭をよぎる。

 そんな事に思い至ったら、このまま突っ走れる訳もなく。一気にブレーキがかかった。

「寝るならシャワー浴びてから寝よ。先浴びてきていいよ」

 若干困惑したような表情を見せた井上に、バスタオルと寝間着代わりのTシャツを持たせると、半ば強引に脱衣所に連れて行った。