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「ホントにホントにホントにホント?」

「ホントにホントにホントにホント」

 ダイニングバーのカウンターに突っ伏した井上が、力のない声で繰り出した謎の呪文のような言葉をおうむ返しに返す。
 
「いやぁー、酷い目にあったけど、井上マジ面白かったわ」


「面白がらないでよ…」


 面白いよ。現在進行形で。

 今まで仕事がらみでしか話してなかったから気にしたことが無かったけれど、こうして二人でいろいろ話してみると井上は考えていることがすぐ顔に出て面白い。先週の顛末を聞きながら変化する井上の表情を見ているだけで十分に面白かった。

「話盛ってるでしょ」

「盛ってないよ」

「嘘でも盛ってるって言ってよ」

 嘘でもいいのか。

 はぁ、と力なく息をついた井上はおもむろに姿勢を正すとこっちに向き直った。

「本当にごめんなさい。クリーニング代、出すから。
あと、お詫びに今日、奢らせて」