「前橋君、おはよう」

「おはよう」

 朝、ロッカーを出た所で休憩室に向かう井上と顔を合わせた。

「仕事、なるべく早めに終わらせるようにするから」

「私も、残業にならないように頑張る」

 井上とは今日の終業後に二人で飲みに行く約束をしていた。先週の金曜日の話をするために。別に聞かなくてもいいと思うんだけどな。俺は誰にも言うつもりないし。

 ちょうど事務室を通った所で電話が鳴った。

「はい。順光化学です」

『おはようございます、四葉細胞の野村と申しますが……』

「あぁ、野村さん。おはようございます。前橋です。何かありましたか?」

 丁度担当している検査センターからの電話に「何かありました?」 なんて白々しく聞きながら、絶対何かあったことは確信している。なんたって一応始業前だ。わざわざダメもとでも電話をかけてきているんだから何かあったんだろう。

『前橋さん!レゾルシン・フクシン1本で良いので急ぎで今日届けて頂くことできますか? 試薬瓶割ってしまって……』

「マジッすか。在庫、多分あるとは思うんですが……。確認して折り返し連絡します。発注書だけ先に送っておいてもらってもいいですか?」