ハッキリと主張すると、一瞬、彼の表情がポカンとなった。

不思議そうな顔をされ、自分の言っちゃったことを瞬時に後悔。

でもその後悔の直後、彼の無表情な顔が、微かに緩んだように見えた。


「だったら……もっと警戒した方がいいんじゃない?」


最後の最後はどこか優しさのある微笑みを浮かべ、彼は諭すようにそう言った。


「……あっ、ありがとうございました!」


私がやっとそう言えたのは、彼の姿がかなり遠ざかったあと。

去っていく後ろ姿に向かってだった。


何て素敵すぎる人だろう……。


ミーンミーンとセミが鳴くのを聞きながら、私はいつまでも彼の姿を見つめていた。